個展「未詳」(BLOCK HOUSE、東京)

日程|2021年1月30日〜2月29日
会場|BLOCK HOUSE

2020年はコロナ禍に見舞われ、働き方や人との距離などライフスタイルの変更を迫られる年でしたが、私は3月にロックダウンした欧州から緊急帰国し、拠点とする京丹後市網野町で刻々と変化する海や空を毎日眺めるようになりました。この数年とても忙しかったのに、一転して丹後半島から何ヶ月も出ることなく、夏の眩い太陽の下や、夕暮れの海を眺めながら身体の鍛錬を続ける日々となったのです。どこまでも続く海や空を前にすると、自分の存在や考えていることがいかに小さなことなのかと思うようになり、私たち人間も他の生命も、無生物や未だ解明や発見されていないあらゆるものすべてによって世界が形作られていることを体感するようになりました。私たちの知らないウイルスが実は数十万種も存在しているそうで、ほんとうは私たちは未詳のものたちに囲まれて暮らしているのです。

宮北裕美

グラデーション(2020年 / ビデオ 1分52秒)

2017年11月8日に「日向ぼっこの空間*」が解体されることになり、その現場に立ち会いました。とてもショックな光景で、自宅に戻ってから心を鎮めるために描いた5枚の絵があります。いま思うとわたしの中でなにかが壊れて、その痛みがつづいていたのかもしれません。コロナ禍でステイホームとなっていた2020年5月に解体の光景を突然思い出し、私は息が苦しく目の前が真っ暗になり涙が止まらなくなりました。あの日描いた絵を箱から取り出して久しぶりに見つめ直したら心が軽くなりました。時間の蓄積が癒やしになることを体は知っていて、痛みに耐えることができるようになるまで待っていてくれたのです。5枚の絵を描いたあとも「ぼろ雑巾のようなもの」とタイトルをつけて36点を描き、そのままにしていましたが、2020年にビデオ作品へと昇華させました。

* 「日向ぼっこの空間」は鈴木昭男が子午線上にある京丹後市網野町の高天山で発表したプロジェクト。1988年秋分の1日を自然の音に耳澄ますために、高さ3.5メートル、長さ17メートルの二面の壁と床を、仲間と共に1年かけて日干しブロックで築いた。徐々に風化していたが、牧場の雌牛が壁の側の窪みに落ちて死んでしまったので安全のために解体される運びとなった。

協力:川口優子

rhythmssssss #1 – #4 (2020年 / シルクスクリーン)

2020年の冬にモノクロのドローイングを描き始め、香港のヤン・ヤンさん(キュレーター・ライター)に写真を送ったところ、一連のドローイングにリズムを感じてもらえたのか「rhythmssssss」だねと軽快な返事がきたので、リズミカルに描き続けることができました。3月にオーストリアにレジデンスした折にも現地で制作していたのですが、滞在半ばで緊急帰国となりました。イベントも中止や延期となりましたが、代わりに自宅アトリエで描き続けた300枚以上の中から4枚を選び版画にしました。「rhythmssssss #2」は2020年にオーストラリアのレーベルRoom40からリリースされた鈴木昭男のLP「Zeitstudie」のジャケットになっています。

協力:川口優子 鈴木昭男

未詳 (2020年 / 流木、コンクリート、精油)

お友達から余命数ヶ月のお父さんの話を伺ったもののどう慰めたら良いのか分からず、ホスピスボランティアをする知人に相談しました。知人は薬剤師であり薬用植物学に造詣深く、精油の香りによる心身の癒しについて教わりました。香りは痛みより早く脳へ届き、疼痛緩和に用いられることもあります。脳でいい匂いと感じると、ストレス緩和のセロトニンや、痛み緩和のエンドルフィンなど脳内神経伝達物質が出て、気持ちも痛みも和らぐそうです。香りが届く大脳辺縁系は敵の匂いを感じたり、赤ちゃんがお母さんのおっぱいにたどり着くための匂い地図がある原始の脳だと言うことも知りました

私がこれまで創造してきたドローイングやオブジェはダンスの延長線上にあり『何か分からないけれども確かに存在している感じ』を内包しているように思います。作品制作に初めて取り入れる「香り」も同じように、モノとして実態があるわけではないけれども確かに感知できるもので、私たちの本能に働きかけます。未知のウイルスに混乱する今だからこそ、「分かりにくく、掬いがたく、見ることも触ることもできないのに、確かに感知している」その感覚を意識したいのです。

協力:星出比呂美

ALL photo by KABO


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